HOME過去ログ一覧表新規相談

過去ログ一括表示
タイトル  食中毒菌と腐敗・食中毒の関係について
記事No  3335
投稿日 : 2018/10/17(Wed) 18:21
投稿者  微生物初心者
初歩的な質問になってしますのですが、分からなく困っているのでご教授願います。

食中毒菌以外の菌であれば、どれだけ菌数が多くても腹痛や嘔吐のような食中毒様症状は起こさないのでしょうか?
なお、このとき食中毒菌による毒素もないものと考えます。
また、食中毒菌以外の菌による食品の腐敗・変敗は全て発酵によるものということでしょうか?

タイトル  Re: 食中毒の原因となる物質
記事No  3340
投稿日 : 2018/10/18(Thu) 13:27
投稿者  おっと
参照先  http://www.mhlw.go.jp/file/06-Seisakujouhou-11130500-Shokuhinanzenbu/H29jokyo.xls
>食中毒菌以外の菌であれば、どれだけ菌数が多くても腹痛や嘔吐のような食中毒様症状は起こさないのでしょうか?

 言葉の定義の問題でもありますが、「腹痛や嘔吐のような食中毒様症状」を起こす菌を「食中毒菌」といいますから、食中毒菌以外の菌は食中毒を起こしません。
 実際には、いろんな菌があるなかでも食中毒を起こす菌はごく一部の特定の菌だけであることが知られています。
 例えば、厚労省の食中毒統計を見ると食中毒の原因となった細菌として次のような細菌があげられています。
【食中毒原因菌】
 サルモネラ属菌、ぶどう球菌、ボツリヌス菌、腸炎ビブリオ、腸管出血性大腸菌(VT産生)、その他の病原大腸菌、ウェルシュ菌、セレウス菌、エルシニア・エンテロコリチカ、カンピロバクター・ジェジュニ/コリ、ナグビブリオ、コレラ菌、赤痢菌、チフス菌、パラチフスA菌、その他の細菌となっています。
 その他の細菌としては、エロモナス・ソブリア、エロモナス・ハイドロフィラ、エロモナス・キャビエ、シュードモナス・シゲロイデス、カンピロバクター・ラリ、A群溶血性レンサ球菌などが報告されています。

 なお、ノロウイルスやロタウイルス、A型肝炎ウイルスなどのウイルス、クドア、サルコシスティス、アニサキス、サイクロスポーラやジアルジアなどの寄生虫、毒キノコや毒ふぐなどの自然毒、ヒスタミン産生菌によるヒスタミン食中毒、次亜塩素酸ナトリウムなどの誤飲などによっても食中毒は起きています。
--- 参考 ---
◇ 「平成29年(2017年)食中毒発生状況[Excel形式:168KB]」/厚生労働省
https://www.mhlw.go.jp/file/06-Seisakujouhou-11130500-Shokuhinanzenbu/H29jokyo.xls

タイトル  Re: 食中毒菌と腐敗・食中毒の関係について
記事No  3341
投稿日 : 2018/10/18(Thu) 15:33
投稿者  おっと
>また、食中毒菌以外の菌による食品の腐敗・変敗は全て発酵によるものということでしょうか?

 「発酵」という言葉をどのように定義するかによりますが、微生物の力によって食品が状態が変わり、お酒や漬物のように人間にとって好都合なものになるときを一般に「醗酵」といいます。ここで、微生物が増殖し物質の変化(例えば食品が酸っぱくなる乳酸発酵など)を起こすことを全て「発酵」と定義すれば「腐敗・変敗は全て発酵によるもの」ということもできるかと思います。
 しかし、人間にとって好ましくない変化の場合は一般に「腐敗・変敗」といいますので、全て発酵というのは言い過ぎだと思います。
 なお、食中毒原因菌も自身の栄養を賄うためには有機物を利用しています。ただ、セルロースやたんぱく質の分解能は低いようで、「腐敗したものを食べて食中毒になる。」といった感じではないようです。

 自然界では、有機物はいろんな微生物の力によって分解され、腐敗して自然にかえり、分解物がまた、次の微生物の栄養源になるといった循環を行っています。それらを「発酵」という言葉だけで説明するのは分かりにくいかなと思います。

>どれだけ菌数が多くても……食中毒様症状は起こさないのでしょうか?
 ということですが、菌数については次のような感じです。

 食中毒菌の最少発症菌量は腸管出血性大腸菌は10個〜100個、カンピロバクターは400個〜500個、サルモネラ属菌は15個〜10万以上、ウェルシュ菌は100万個以上となっています。
 これらの菌の最少発症菌量では食品の腐敗は認められません。新鮮だと思って食べてもあたるときはあたります。
 一方、納豆などは大豆に納豆菌の塊がくっついているといっても良いくらいですが、美味しくいただけます。

 一般の食品の菌数は
 ・LLミルクは無菌、普通の牛乳の菌数は1mlあたり300未満(基準では1mlあたり5万以下)
 ・発酵乳は乳酸菌数又は酵母数が1ml当たり 10,000,000以上残っていることが必要
 ・唐揚げなど加熱直後のものは普通、1gあたり300未満
 ・スーパーで販売されているサラダ類は 1gあたり300未満〜100万超え、野菜サラダ類は普通 1gあたり10万以上
 
 例外はあるでしょうが、細菌数が1gあたり100万を超えると食べる際に異常を感じることがあるようです。
 例えば、サラダの野菜の端の色が少し変わったものなどは 1gの菌数はゆうに100万は超えているでしょう。

--- 参考 ---
◇ ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典
https://kotobank.jp/word/%E7%99%BA%E9%85%B5-115005
生態系とその保全(炭素の循環・窒素の循環)【生物基礎】
 

タイトル  Re^2: 食中毒菌と腐敗・食中毒の関係について
記事No  3343
投稿日 : 2018/10/23(Tue) 17:10
投稿者  微生物初心者
とても詳しくご解答してくださりありがとうございます。


例えば、もし食中毒菌ではない大腸菌群が100万/gに増殖しており明らかに腐敗しているような食品を食べた場合であっても、腹痛・嘔吐などは起こさないということでしょうか?

タイトル  Re^3: 食中毒菌と腐敗・食中毒の関係について
記事No  3344
投稿日 : 2018/10/23(Tue) 20:07
投稿者  おっと
参照先  http://www.eiken.co.jp/modern_media/backnumber/pdf/MM1410_03.pdf
> 食中毒菌ではない大腸菌群が100万/gに増殖しており明らかに腐敗しているような食品を食べた場合であっても

腹痛・嘔吐などは起こさないでしょうね。そんなものは美味しくもないし、決して食べたいとは思いませんが。

このことは、人のお腹の中を考えてもらうと分かりやすいと思います。
お腹の中の大腸菌がそんな感じではないでしょうか。お腹の中では、実際は大腸菌はもう少し少なくその他の菌がもっと多いと思いますが…。似たような環境ではないでしょうかね。
資料によると、大腸には嫌気性菌もいれると1000億/gほどの菌がいるみたいですよ。

参考:
◇ 平山和弘「腸内細菌叢の基礎」モダンメディア60巻10号2014 http://www.eiken.co.jp/modern_media/backnumber/pdf/MM1410_03.pdf

タイトル  Re^4: 食中毒菌と腐敗・食中毒の関係について
記事No  3345
投稿日 : 2018/10/23(Tue) 22:25
投稿者  RED
納豆や臭豆腐について、微生物初心者さんはどのようにお考えですか?
これらの食品は、食習慣によっては「明らかに腐敗しているような食品」と考えられますがいかがでしょうか。
なお、大腸菌群が100万/gとはどのような食品を想定されていますか。

> > 食中毒菌ではない大腸菌群が100万/gに増殖しており明らかに腐敗しているような食品を食べた場合であっても
>
> 腹痛・嘔吐などは起こさないでしょうね。そんなものは美味しくもないし、決して食べたいとは思いませんが。
>
> このことは、人のお腹の中を考えてもらうと分かりやすいと思います。
> お腹の中の大腸菌がそんな感じではないでしょうか。お腹の中では、実際は大腸菌はもう少し少なくその他の菌がもっと多いと思いますが…。似たような環境ではないでしょうかね。
> 資料によると、大腸には嫌気性菌もいれると1000億/gほどの菌がいるみたいですよ。
>
> 参考:
> ◇ 平山和弘「腸内細菌叢の基礎」モダンメディア60巻10号2014 http://www.eiken.co.jp/modern_media/backnumber/pdf/MM1410_03.pdf

タイトル  Re^4: 食中毒菌と腐敗・食中毒の関係について
記事No  3348
投稿日 : 2018/10/25(Thu) 16:55
投稿者  微生物初心者
なるほど!お腹の中のことを考えるととてもわかりやすいですね!!
とてもスッキリしました。
ありがとうございます!

補足もありがとうございます。
お腹が痛くなる時って必ずしも菌のせいではないですもんね・・・

タイトル  Re: 補足です
記事No  3346
投稿日 : 2018/10/25(Thu) 12:15
投稿者  おっと
補足して修正です

私の周りの方から、先の回答は言い過ぎではないかと言われて気が付きました。
明らかに腐敗しているような食品を食べた場合であって、食べた方が「腐敗したものを食べるとお腹が痛くなる」と信じていた場合などは、腐敗したものを食べてしまったという事実が精神的に大きなストレスとなり、吐き気、嘔吐、腹痛、下痢などの心因性の反応を示すことは十分に考えられます。

 心因性の場合は、熱が出にくいとか病原菌が検出できないということはあるのでしょうが、現象そのものは起きていますので、「お腹が痛くなったりすることは限定的にあるだろう」と修正します。

 また、腐敗しているものを食べた例として、昭和50年の糸を引いた幕の内弁当を「自社の弁当で食中毒になるわけがない」といって食べ死亡されたとされる事件や、発酵と腐敗の区別が難しく、4人の方が死亡された昭和26年のいずしによるボツリヌス食中毒事件が発生しています。

 人間は本能的に腐ったものは食べないようになっています。「腐ったものを食べても良いという訳ではない」ということは強調しておきたいと思います。

参考:
◇ 資料室「日本の食品衛生の歴史」/公益社団法人 日本食品衛生協会
 http://www.n-shokuei.jp/town/history/nenpyo01.html
◇ 17.イズシ(いずし、飯寿司)とボツリヌスE型中毒/wellba
http://www.wellba.com/wellness/food/contents/0502.html


過去ログ一覧表