資料18 温度と時間の黄色ブドウ球菌の菌数及び毒素量に及ぼす影響の推測
「食品衛生なんでも相談室」No.2068 で次の質問があり、新ロジスティックモデル エクセルマクロプログラム(大腸菌、黄色ブドウ球菌、腸炎ビブリオ版:温度)
[(財団法人 食品産業センター)]を利用して、菌数を予測してみました。
(予測微生物学:https://haccp.shokusan.or.jp/information/other/predict/)
タイトル | : おにぎりの保存温度について | 相談内容の抜粋: 素人の感覚からすると、朝おにぎりを作って室温で昼まで保存というのはよくありそうなのですが、室温だと何時間くらいまで安全なのでしょうか。 |
投稿日 | : 2009/08/07(Fri) 21:53 | |
投稿者 | ナマケモノ |
おのぎりでの食中毒というと、黄色ブドウ球菌がおにぎり中で毒素を作り、それを食べて起こる食中毒がよく発生しています。ということで、黄色ブドウ球菌ではどうなるか調べています。
ケース 1 | ケース 2 | ケース 3 |
スーパーでの日常のケース(幸運な場合) | 某百貨店で食中毒事故を起こした「うなぎ弁当」を推測 | 家庭で手荒れのある方がおにぎりを作った場合 |
注:各グラフをクリックすると前提とした初発菌数、温度、時間の数値が入った図へジャンプします。 菌数は対数で表示されています。 菌数「2」とは10の2乗=100個、「6」とは10の6乗=1000,000個を表します。 |
ケース1 スーパーでの日常のケース(幸運な場合)
大型スーパーのバックヤードの衛生管理にあまり問題が無い場合、スタート時の菌数が少なく、かつ、購入後早めに食べてもらうと毒素も産生されておらず事故にはいたりません。
消費者の方が事故をほとんど経験しないと言う生活実感とあっていると思います。<ケース1のグラフ>
スーパーの衛生状態が悪い場合は、ケース3と同様な結果になり、運が悪いときには事故に巻き込まれる可能性があります。
ケース2 某百貨店で食中毒事故を起こした「うなぎ弁当」を推測
土用の丑の日ともなれば、前日仕込みは常識。大量販売を目指すと冷蔵庫もパンク。
クーラーが効いた部屋での保管で大丈夫のはずですが、多忙時にはクーラーが効いた部屋も27℃前後でも涼しく感じます。
さばいたウナギに黄色ブドウ球菌が付着しておれば、忙しいと交差汚染のリスクが大です。加えて従事者が黄色ブドウ球菌の保菌者だったら、器具、手袋を介しての交差汚染の可能性も大です。
<ケース2のグラフ>の例のように、前日の夕方焼き上げたウナギを使用すると、お昼12時には菌数は10個だったものが10の7乗(1千万)を超える数になり、嘔吐毒のエンテロトキシンも溜っています。
この事件のポイントは焼き上げた鰻に、黄色ブドウ球菌を再付着させたことにあります。製造段階で食中毒予防の3原則「1.つけない。2.ふやさない。3.やっつける。」が守られていたならせいぜい「腐敗・変敗」の苦情で終わっていたところでした。
ケース3 手荒れのある方が、あまり注意を払わずおにぎりを作った場合
参考:黄色ブドウ球菌とは
1.無芽胞の球菌で,鞭毛のないグラム陽性の通性嫌気性菌である。
2.増殖の至適温度は30〜37℃,6.5〜46℃の広範囲で増殖する。
3.耐塩性があり,7.5%の食塩含有培地で良好に増殖する。
4.至適pHは7.0〜7.5,増殖域はpH4.2〜9.3である。
5.黄色ブドウ球菌が食品中で増殖するとき,耐熱性の毒素エンテロトキシンを産生する。10℃以下では菌の増殖も少なく、毒素の産生もみられない。
6.この毒素を摂取することにより,吸収された毒素は延髄を刺激し,嘔吐をもたらす。潜伏時間は30分から6時間(平均3時間)
7.菌は加熱により容易に死滅する。